大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和57年(行ツ)66号 判決 1982年10月08日

埼玉県大宮市高鼻町三丁目六八番地

上告人

山形屋興業株式会社

右代表者代表取締役

佐藤長八

右訴訟代理人弁護士

中村喜三郎

埼玉県大宮市土手町三丁目一八番地

被上告人

大宮税務署長

徳永英雄

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行コ)第七八号、同五六年(行コ)第二九号法人税額等更正処分取消等請求控訴、同附帯控訴事件について、同裁判所が昭和五七年年二月一八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中村喜三郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大橋進 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 牧圭次)⑫大橋進・木下忠良・鹽野宜慶・牧圭次

(昭和五七年(行ツ)第六六号 上告人 山形屋興業株式会社)

上告代理人中村喜三郎の上告理由

第一点 原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背があり破棄さるべきである。

この法令違背は経験法則違背であって、原判決の理由には正常な裁判官の正常な判断であることを疑わしめるような常識に反し、論理の辻褄の合わない事実認定がある。

一 原判決書は「理由」二項の1で(一)(二)(三)(四)(五)(六)(七)(八)(九)の事実を指摘して、

以上の各証拠、特に書証の記載が真実に合致するならば、被控訴人(上告人)の前記主張は証拠によって裏付けられるというべきである。

旨の判断を摘示し乍ら、

二項の2、以下でその実質的証拠価値の判断として、

(一) 光栄建設は本件土地の造成工事や売却の仲介をしたこともなく、従って九八〇万円也を受領したこともない。

(二) 増田建設の土地埋立工事代金八八〇万円也は架空工事であった。

(三) 本件土地の造成工事は前記(二)の事実と契約に使用した用紙が同一様式であるから本件土地の造成工事に支払った九八〇万円也も(二)と手段方法が同一で架空経費として処分した。

(四) 甲五号証の「及び仲介料」は昭和五一年六月一〇日以降控訴人(被上告人)に始めて提出した。

との各事実を認め殊更に(一)では「富永光江の丸印」と摘示しているが、これは有限会社光栄建設の代表取締役印であり且つ、富永光江個人の実印であることをボカしている。

この認定事実に加えて原判決は

(イ) 九八〇万円は仲介料の最高額四九九万六、八〇〇円と比較して高額であること、

(ロ) 乙一九乃至二一号証に照らすと光栄建設の社員に被控訴人が九八〇万円を支払ったことがないことが窺われ、九八〇万円也は被控訴人個人の所得である旨の判断をした次第である。

以上の判断の帰納は増田建設の場合にしても直接契約をした本人の増田光夫でなく、その常務の大森和敏の供述であり、本件九八〇万円也にしても直接折衝した赤神敬太の証言よりも、この契約書作成には全然関係のない新津芳美、中里行夫、角田忠男の各供述を重視した結果であるが、これらの者がその職業上税務署に迎合することは恰も暴力団員が警察、検察に迎合するよりもっと甚だしい者たちであることは経験法則上明らかであり、更に、原判決は甲三ノ一と乙一三号証添付の契約書の様式が同一であるから本件土地の契約も架空であると判断しているけれども、この様式の用紙は日本建設業協会が統一して市販している用紙であって、建設関係の契約に等しく使用される筋合であるのに斯る判断をした判断は経験法則に反するのみでなく極めて短絡的でもある。

又、被上告人が上告人から提出させた書面は乙四の一乃至四及乙一一号証のみと判断しているけれども、税務調査に当っては種々の関係帳簿を提出させることは、これ又経験法則でもある。甲五の補助簿を出させないわけがない。

現に被上告人は乙一五の一乃至六を本件金九八〇万円也の財形化の間接証拠として提出させているわけである。

甲五号証の「及び仲介料」を上告人が昭和五一年六月一〇日審査請求后始めて提示したというのなら、何故その時コピーをとらなかったのか、これも税務調査の常識を欠くところであって、原判決はこれら数々の経験法則違背があって、この違背なかりせば二項1で判示したとおり上告人勝訴となっているわけであって重大な影響を及ぼす法令違背という他ない。

第二点 原判決には民事訴訟法第三九五条第六項にいう理由に齟齬があって破棄さるべきである。

一 原判決は四項の1で「現実には小切手金は支払われた。そして、その支払いを受けた者については、線引小切手の裏面に振出人の記名押印があればその所持人を振出人の使者ないし代理人とみなして、取引先以外の持参人に直接現金による支払いをするという慣行に従って処理された蓋然性もある……」と判断し乍ら右金員は、昭和四七年一二月三〇日ころ佐藤の手中に帰したと判断している。

この判断の前提は原判決書の四項の「裏面の「山形屋興業株式会社代表取締役佐藤長八」という手書部分は、そこに押されている被控訴人の代表者印が同人の意思に基づいて押捺されたこと原審証人小池りつ子の証言により明らかであるから全部真正に成立したものと推認すべく、光栄建設の記名印は、光栄建設の代表取締役富永光江もしくは同社の社員の意思に基づいて押捺されたこと前認定のとおりである」との判断に立脚しているが上告人の捺印は乙一号証を現金化する為の必要不可欠の銀行印であって、この所持人が光栄建設の社員であることは常識である。この小切手持参人が金九八〇万円を手中にしているのに何故上告人佐藤に本件金九八〇万円也が昭和四七年一二月三〇日以降手中に帰したと判断されるのであろうか、こゝに理由に明らかな全く常識を外れた齟齬ありとされる所以がある。

二 更に、原判決は四項の3で「却って、昭和四八年一二月ころに至り佐藤個人が金融機関に一〇〇〇万円の定期預金を開設している」と判示している。

この判断は昭和四八年一二月頃に金一〇〇〇万円の定期預金を開設している。だから本件の金九八〇万円は佐藤個人の所得であるというのであるが、上告人佐藤は当時も現在も何十億の資産を有する人物であって、金の一〇〇〇万や二〇〇〇万円等はメでない資力があり、而も本件九八〇万円也は昭和四七年一二月三〇日現金化していて、それから一年も経過した金一〇〇〇万円頃の定期預金の増額をもって本件金九八〇万円也が佐藤の所得となったという判断と結びつけたということは余りにも無理な理由づけで齟齬という他はない。

且つ審理不尽も甚だしい、切捨御免を地でゆく判決である。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例